電気自動車は、エコという観点では魅力的な車であり、日本でも徐々に車種が増えつつあります。特に、走行中にCO2が発生しない点が魅力的で、燃料費を抑えやすいメリットがあります。
また、騒音や振動が小さいのに対してパワフルな走行が可能な点が魅力的です。電気自動車はメリットが多い反面、デメリットも少なからず存在します。特に、災害時に使えないというイメージを持たれがちですが、実際に使えないのでしょうか。本記事では、災害時における電気自動車の活用方法などを紹介します。
電気自動車は非常用電源として役に立つ
電気自動車は災害時に使用できないイメージを持たれるものの、実際には非常用電源として大活躍します。過去、以下の災害時に電気自動車が非常用電源として活用されました。
- 北海道胆振東部地震
- 令和元年(2019年)房総半島台風
- 令和元年東日本台風
各災害における、活用事例を紹介します。
北海道胆振東部地震
平成30年9月6日に、最大震度7を観測した北海道胆振東部地震では、死者は42名、重軽傷者は762名となりました。
電力として、発電所の停止によって日本で初めてとなるエリア全域に及ぶ大規模停電が発生しました。道内全域において最大で295万戸程度が停電して、ブラックアウトから全域に供給できるまで45時間程度を要しました。
そこで、北海道胆振東部地震発生の2日後には日産自動車からガソリンの供給が不足している厚真町、安平町、むかわ町へ日産リーフが貸与され、非常用電源やガソリン車に代わる移動車として活用されたのです。
ほかにも、北海道内の日産の販売会社において、停電が解消され次第、店舗に配備している急速充電器を稼働し、稼働状況を公開してEVへの電力供給がおこなわれました。
令和元年房総半島台風
令和元年房総半島台風は、令和元年9月7日から8日にかけ、小笠原近海から伊豆諸島付近を北上し9日3時前に三浦半島付近を通過して東京湾を進んで、5時前に強い勢力で千葉市付近に上陸しました。
人的被害としては、大雨と暴風によって死者3名となり、住家被害についても全壊が391棟、半壊と一部損壊が76,483棟、床上・床下浸水が230棟発生しました。記録的な暴風によって、送電線の鉄塔や電柱の倒壊がみられ、さらに倒木や飛散物による配電設備の故障が発生しました。
これに伴い、首都圏を筆頭として最大約934,900戸の大規模な停電が発生したのです。長期間にわたる停電の影響で通信障害が発生しただけでなく、多くの市町村において断水などのライフラインへの被害もみられました。
日産では、台風の影響により大規模な停電が続いていた千葉県内の避難所や福祉施設において、「産リーフが動く蓄電池として活用されました。また、自動車メーカー各社が協力する形で電気自動車やプラグインハイブリッド車を千葉県に派遣されています。
蓄電池がない場所であっても電力を供給できるように、車と可搬型の給電器を同時に使用た支援が行われました。
令和元年東日本台風
令和元年房総半島台風の翌月に発生した台風19号においても、静岡県や関東、甲信、新潟県、東北地方などで記録的な大雨が降り、甚大な被害をもたらしました。昭和54年に発生した台風第20号以来、40年ぶりに死者100人を超える台風となったのです。
全国で10万棟の住家に被害が確認されており、インフラ関連では北陸新幹線の長野駅-上越妙高駅間が約2週間運休しました。停電も大規模で発生したため、長野県の復興支援を目的として電気自動車が広く活用されたのです。
電気自動車からボランティアセンターに電力が供給されて、電動工具の充電やご飯の提供が可能となりました。
電気ドライバーや丸ノコギリをスピーディーに充電できたため、浸水した家屋の撤去作業に貢献したのです。
系統電源の復旧後に充電をおこなった上で、別の被災地にも随時移動して非常用電源として活用されました。
災害時に電気電動車から電気を取り出す方法
ここまで紹介したように、電気自動車は災害時に主に非常用電源として活躍します。実際に、災害時に電気自動車から電気を取り出す方法として、以下があります。
- 車内のコンセントからの給電
- 給電端子を使った給電
各方法の詳細は、以下のとおりです。
車内のコンセントからの給電
電気自動車の多くが、車内に100V電源用コンセントが設置されています。このコンセントに接続すれば、電源として使用することが可能です。
ただし、すべての電気自動車でコンセントが装備されているわけではない点に注意してください。車内のコンセントを用いる場合の最大出力は1,500Wであり、決して多くないものの、以下の家電に給電が可能です。
- 家庭用エアコン
- 電子レンジ
- ドライヤー
- 冷蔵庫
- テレビ
- 扇風機
- 電気ポット
- 卓上IH
- 携帯充電器
- 随時照明
機器の設置や配線工事が不要であり、車本体のみで給電できるメリットがあります。
給電端子を使った給電
電動車の給電口にパワーコンディショナーを接続すれば、給電が可能です。パワーコンディショナーがあれば給電できる関係上、設置や配線工事は不要となります。
給電端子を使った給電の場合、コンセントで給電する方法よりも使用可能な電力量が大きい特徴があります。
避難所や小規模なオフィスでも十分カバー可能です!
FCVの場合、給電口から別売の可搬型給電器や充放電設備などの給電端子を別途準備しなければなりません。
車内コンセントから給電する場合に注意したいポイント
より手軽に給電が可能となる車内コンセントですが、実際に利用する際には以下の点に注意してください。
- 車両を発進させないように輪留めなどをおこなう
- 地面が固く平らな場所に駐車する
- コードリールを用いる場合はすべて引き出す
- たこ足配線はしない
- 換気の良い場所に停車する
- 極寒地や炎天下で電気製品が故障するリスクがある
- 医療機器には使用しない
各注意点について、詳しく見ていきましょう。
車両を発進させないように輪留めなどをおこなう
車外で使用する機器に対して給電する場合、同じ場所に固定させて給電しなければなりません。そこで、停車させて給電することになりますが、シフトはPポジションにしてパーキングブレーキをかけてください。
地面が固く平らな場所に駐車する
給電のために停車する場所は地面が固く平らな場所として、可能な限り輪止めを設置して意図せず車が移動することを防止しましょう。特に、地面が柔らかいと車の重みで地面が変化して車が移動してしまうリスクがあります。
地震の場合は硬い地盤の箇所に設置したくなりますが、硬い地盤の場合は振動が速く伝わりやすいため余震の発生時に大きな揺れとなる可能性もあるので、その点も考慮して駐車場所を決定しましょう。
コードリールを用いる場合はすべて引き出す
コンセントから延長するため、または口数を増やす目的でコードリールを用いて給電する場合があります。コードリールを用いる場合は、発熱防止のためコードはすべて引き出して使用してください。
コードは電気を通すと、必ず発熱して巻いたまま使用するとコードに発生した熱が逃げる場所がありません。
熱を帯び続けるとコードの被覆が溶けて、やがて発煙や発火に繋がるリスクがあるのです。
よって、コードリールを用いる場合は手間がかかるものの、必ずすべて引き出して使用してください。
たこ足配線はしない
家庭用コンセントを利用する場合と同じく、電気自動車の車内コンセントでもたこ足配線はしないようにしましょう。たこ足配線により、無理やり複数の機器を接続することで使い方次第ではコンセントの容量を超えるケースがあります。
容量をオーバーすることで電気火災のリスクが高くなるので要注意です!
ほかにも、発熱することで家電製品や電子機器が正常に動作しなかったり故障したりする可能性が考えられるので、たこ足配線は避けて使用してください。
換気の良い場所に停車する
電気自動車の車内コンセントから給電する場合、必ず換気の良い場所に停車させて利用してください。これは、HVやPHVの場合、車内コンセントを使用するとエンジンが作動することがあるためです。
吸排気設備がない車の庫内や雪が積もった場所などでは、酸素欠乏のリスクや排気ガスが充満するなどの問題が生じます。よって、風通しの良い場所に停車させて利用しましょう。
極寒地や炎天下で電気製品が故障するリスクがある
電気自動車から給電する場合、極寒地や炎天下など過酷な環境で利用する場合も想定されます。車室内温度や屋外温度について、極寒地や炎天下などにおいてはマイナス30°から80℃となる場合もあり、故障や作動不良になるリスクがあります。
その点を考慮したうえで、電気製品を選定して利用してください。
医療機器には使用しない
電気自動車から給電する対象として、医療機器である以下についてなるべく利用しないようにしましょう。
- 人工呼吸器
- 酸素濃縮器
- 吸引器
医療機器に使用する場合、万が一給電が途絶えた際に命の危険が伴うためです。どうしても医療機器に使用しなければならない場合は、経済産業省・国土交通省・電動車活用社会推進協議会がまとめた医療機器への給電活用マニュアル(2022年3月)に準拠してください。
H2:電気自動車自体のデメリット
電気自動車から給電する際の注意点以外にも、電気自動車自体のデメリットがあることも考慮しなければなりません。電気自動車のデメリットとして、以下が挙げられます。
- 充電に時間がかかる
- 充電スポットが少ない
- バッテリーの劣化が懸念される
- 寒さにより性能が低下する
各デメリットの詳細は、以下のとおりです。
車両価格が高い
電気自動車のデメリットとして、車両価格が高い点が挙げられます。EVやPHEVが高価である理由は、バッテリーの生産コストが高いためです。
電気自動車で使用するバッテリーはリチウムイオン式が主流ですが、材料となるリチウムはレアメタルと呼ばれています。レアメタルは希少性が高く、生産国として以下に限定されている状況です。
- オーストラリア
- チリ
- 中国
日本でも実は、南鳥島周辺の海域にレアメタルが大量に眠っていると言われています!
現時点では、レアメタルは輸入に頼らざる得ない状況です。また、リチウムイオン電池としてはコバルトなどの高価なレアメタルも使用しており、バッテリー生産コストがアップしているのです。
日本では電気自動車の普及を目的として、2024年度のCEV補助金額として以下の上限額の範囲内で補助金を付与しています。
- EV:85万円
- 小型・軽EV、PHEV:55万円
- FCEV:255万円
上記補助金の支給を受けても、まだガソリン車やハイブリッド車と比較すると割高感があるのは事実です。
車種のラインナップが少ない
電気自動車の場合、まだまだ車種のラインナップが少ないデメリットがあります。コンパクトカーやハッチバック、SUVタイプの電気自動車はあるものの、国内で人気があるスライドドアを採用したミニバンタイプの電気自動車は国内外含めて存在しません。
デザイン的にも秀逸な電気自動車があるものの、自分が乗りたいタイプの車がない場合が多い点はデメリットと言わざるを得ません。
充電に時間がかかる
電気自動車の場合、ガソリン車で言うガソリン代わりになる電気をチャージしなければなりません。チャージ方法としては、家庭用のコンセントからも充電可能です。
ただし、バッテリー容量や充電器の出力主題では充電率20%から100%までチャージするのに1日程度かかることも少なくありません。
急速充電する方法として、公共充電スポットにおける急速充電器を利用することも可能です。それでも、充電するまでに30分程度かかるケースがあります。
ガソリン車やハイブリッド車と比較するとチャージスピードは極端に遅いと言えます。
航続距離としては、日産リーフで322km程度しかなく、頻繁に充電が必要となるデメリットもあります。
充電スポットが少ない
電気自動車を利用する上で、充電スポットの確認は必須です。これは、充電スポットがまだまだ不足しているためです。
資源エネルギー庁がまとめた「令和4年度末揮発油販売業者数及び給油所数」によれば、全国の給油所(SS)数は27,963カ所存在します。一方で、日本国内のEV充電スポット数は株式会社ゴーゴーラボのプレスリリースによれば、2024年3月末時点で21549拠点しかありません。
急速に増えている印象はあるものの、欲しい場所に充電スポットがあるとは限りません。
バッテリーの劣化が懸念される
電気自動車のバッテリーは、電気の充電や放電が急激におこなわれると発熱する特徴があります。長時間にわたってバッテリーが高温になることで、バッテリー劣化が進行しやすくなるのです。
リチウムイオンバッテリーである以上、充電や放電を繰り返すだけでも徐々に劣化していきます。まだ明確なデータはないものの、バッテリーの劣化が懸念されるのは事実です。
寒さにより性能が低下する
電気自動車は緊急時の非常用電源として使用できるものの、寒さにより機能が低下する事例が多発しています。基本的には寒冷地であっても電気自動車は利用可能です。
ただし、外気温が低い場合は充電スピードが落ちてしまうのです。世界で最も電気自動車が普及しているノルウェーは、寒冷な地域として知られています。
ノルウェーで車を利用する際には、走行距離は比較的短いため性能の低下を気にする機会が少ない状況です。よって、寒冷地で長距離乗る機会が多い場合には電気自動車は向かない可能性があります。
まとめ
電気自動車は、一見すると災害時に弱いように見えて、実際には多くの活用事例があります。特に、非常用電源として広く活用です。
給電端子を使った給電をおこなえば、小規模オフィスにも給電することができます。ただし、給電時には注意すべきポイントも存在します。
本記事で紹介した内容を参考に、緊急時に電気自動車を活用してみてはいかがでしょうか。